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第9回 マニュアルどおりの行動は

先日、お台場の某所のアトラクションで死亡事故があった。客が太めで安全ベルトが締まらないため、安全バーを装着しただけで運転。その結果、約5メートル下の床面に客が転落し、死亡したという。
もちろんマニュアルでは、安全ベルトが締まらない客には丁重に遠慮してもらうということになっていたらしいが、社員に確認し、OKをもらったという。以前から、こうした運用がなされていたらしい。

アトラクションの事故は、どのテーマパークにも限らずよくある話だし、技術的なことはよくわかんないので、私が文章をおこすほどでもない。ただ、テレビで元アルバイトという人が話しているのを聴いて、えっ?、と思ったので、急遽、書くことにしたのだ。
元アルバイトなる人はこう言っていた。
「読んだマニュアルの中には、そういったことは書いてなかったです」(たぶん、こんなニュアンス)

はぁ? マニュアル読んでいるの?

↑というのは、ディズニーのキャストをやったことがある人しか、わからないだろう。キャストは一々マニュアルを読むことはしない。みんな、実地でおぼえるのだ。
(道具の名前とか、薬剤の希釈率とか、レジの操作方法とか、そんな紙はトレーニングの時には配られますよ)

「話してみせ、やってみせ、やらせてみる」
こうして、身体でおぼえさせていくのだ。マニュアルは、教える人が読むものなのである。おなじマニュアルを元に教えるからこそ、多くの人に同じように教えられるのだ。
教え方はトレーナーによって違うけれど、教える内容は同じということ。結局マニュアルを読むのは同じだというかもしれないが、元々自分がやっていたことをきちんと教えるためのものなので、間違った解釈をする可能性はほとんどない。それに、トレーナーのトレーナーがいるので、さらに人によって違うことを教える可能性はなくなるのだ。

今の私の職場でも、何かと「マニュアルを作って、それをみんなが読めるようにすれば、情報の共有化になる」と主張する上司がいる。私にいわせれば、それは幻想だ。一つの文章を読んで、みんなが同じ解釈をするとは限らないし、すべてが頭に残るわけでもない。そのつど読めばいいというが、それは意味もわからず、ただ書いてあることをやればいい、という意味に他ならない。
自分で理解せず、ただ書いてあったから、そのとおりにやりました、というのは、まさにマニュアル社会そのもの……つまりは無責任ということである。
今回のお台場某所の事故についても、本社作成のマニュアルのほかに現場の裏マニュアルがあり、それすらも、守られていなかったためだという。もし、マニュアルに書かれていることの意味を理解していれば、裏マニュアルなど存在しないはずだし、社員の判断でOKになるようなこともない。
おそらく、こんな会話は日常茶飯事だったんだろう。

 「こんな客がいるんですけれど」
 「マニュアルにはどう書いてあった?」
 「えっと……(ページをめくる)……と書いてあります」
 「じゃあ、そう説明するしかないな」
 「でも、クレームきついっすよ」
 「じゃあ、責任者に判断してもらうしかないな。ちょっと待てよ。裏マニュアル見ると……あった、あった。前もうるさい客がいて、最終的には乗せたみたいだな。そんな客がいたら、責任者の判断で乗せてもいいって書いてある」
 「えっ、あぶなくないんですか」
 「しょうがないだろう。本人がどうしても乗せろっていうんだから。大丈夫だよ、安全バーがあるんだし」

……目に浮かぶ光景である。こういうマニュアル社会では、マニュアルがすべてといいながら、想定外のことは裏マニュアルで対応し、それでもだめなときは現場責任者の判断で処理される。その判断もマニュアルやその根底にある意味、理念、考えではなく、前例やことなかれ主義が基準となるのだ。それは、マニュアルが不磨の大典となって、実態とあわなくても、なんとかしようとしてしまうためにおきることだ。

マニュアルを作ることは大切である。「標準」がなければ、何もできないからだ。しかし、それは標準であって、なんのために、そのマニュアルが存在するかを理解していなければ、運用などできるはずがない。実際のやりかた、手順なんて、時間が経ち、いろんな経験があり、状況が変わることによって、変わってくるものだ。それは変えればいいのだ。標準は時間が経てば変わるものである。でも、その根底にあるものは、そんなに簡単には変わらないでしょう?

こういう事故があったあと「マニュアルの遵守徹底」などということが多くの遊園地でいわれるのだろう。

そのマニュアルに書かれていることの意味ってなんなの?と確認することの方が先ではないだろうか。

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