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第8回 新人がやってくるとき

うちの職場にはここ数年、新人が入ってこないから、私はいつまでも一番若い人間だ。まるで、永遠に歳をとらないピーターパンみたいだ(ちょっと違うか)
わーい、いつまでも若いっていいなぁ、と喜んでみてもそれは組織の中だけでの話。一番下で一番若くても、新人にはなりえないし、少年のままでもいられない……はぁ。。

やっぱり、新しい人がどんどん入ってくる職場はいい。たとえ、辞める人が多いから、どんどん新人が入ってくる、なんて職場だったとしても、人が入れ替わるだけでも、新しい気分になることができるから(某テーマパークのことをいっているのではない)。人もかわらず、何もかわらず、時だけが過ぎていくような職場って、ほんとにつまらない。

……東京ディズニーリゾートでは一年中、新人がデビューしているけれど、もっとも大量の新人がパーク内に現れるのが冬から春へと移りかわろうとする時期である。

2月の半ばくらいになると、キャストがつけるネームタグとは違う、名札をつけた集団がパークの中をうろうろしている姿を見かける。これは、採用されたキャストが、最初のトレーニングとしてトレーナーからパークの案内を受けているのである。ガイドツアーの説明と似ているかもしれない。
30分ほどのツアーだったと思うが、私は、未だにこのとき受けた説明をだいたい覚えている。基本的には、パークの構造を説明するツアーで、アトラクションの説明などはほとんどしない。
このウォークスルーによって、ゲストとして遊びにきていたときとは違う視点からパークを見ることができるようになる。

そして、彼らはキャストとして現場に配置される。この時期、パークの中でどこか頼りなさそうな、いかにも新人らしいキャストを多く見かけるようになる。

春は新人キャストが大量に配属される季節なのだ。

春は出会いと別れの季節であるとよくいわれるが、パークの中はまさにそのとおりだ。大学や専門学校などを卒業すると同時に、キャストを卒業する人たち。一方で高校卒業を機に、新年度を前に新しく入ってくる人たち。……こうして、パークは毎年多くのキャストを入れ替えながら運営されていく。

私は今でもこの時期になると思い出す。ほとんど遊びにきたこともないディズニーランドのオンステージに、たった三日ほどの研修のあとで放り出された恐怖。ときどきトレーナーの人が見にきてくれるが、ずっと一緒にいるわけではない。デビューした日は閑散とした平日で、そのランドではもっとも楽な場所であったにもかかわらず、へとへとになりながら歩き回った。パークの地図も頭に入っておらず、ゲストから声をかけられるたびに冷や汗をかいたものだ。掃除のペースもつかめず、気がつくと昼のパレードが始まり、帰る時間となっていた。

……私はこの季節のパークが一番好きである。パークに入ると、いたるところで新人のキャストの姿を見ることができる。ゲストに道を聞かれて、なにやらいろいろと書き込んだマップを見ながら、必死になって答えようとするキャスト、商品を棚に並べながら値段やキャラクターの名前をおぼえようとしているキャスト、レジを前に緊張で顔をこわばらせていると、先輩から声がかかって顔をほころばせるキャスト、ゲストの質問に一緒になって悩むキャスト……みんな一生懸命だ。彼らはみな、ゲストにハピネスを与えようと必死になっている。ここにキャストとしての本当の姿があるのではないか。

ふつうのゲストにとっては、スタンダードなサービスを受けられないので迷惑なことかもしれないが、私はこの時期のパークが一番好きだ。
パークにあふれる新人キャストは、その存在だけで東京ディズニーランドを新鮮なところにしてくれる。わからない、困った、そんななかで、必死に、一生懸命になってゲストにこたえようとしている姿が好きなのだ。一部のベテランキャストが忘れている「ゲストはすべてVIP」「永遠に完成しない場所」ということを、新人キャストたちは身体で表現しているように思えるのだ。

だから、パークを歩きながら、そういった光景を見かけるだけで、何か幸せな気分になるのだ。まだTDRは終わっていないんだって。

一方で、そんな新人キャストを許せないゲストもいるらしい。あるゲストが新人キャストに道を聞いたところ、そのキャストはわからずマップを取り出して考え込んでいると、違うゲストが間に入ってきて、道を教えようとしたそうだ。道を聞いたゲストも困惑するし、キャストも「私が……」といったら、その割り込んだゲストは「私の方が詳しいんだから」といって、道を教えてしまったというのだ。

たまに、私もそんな光景を見ると「代わって教えてあげようか」と思うこともあるが、ゲスト、キャストとしての役割があると思うのだ。だから、ほかの遊園地とは違い、「ゲスト」「キャスト」と呼称し、それぞれにルールなり役割があるわけではないか。

本当にTDRが好きなら、そういった新人キャストを暖かく見守るくらいの心の広さがあってもいいのではないかと思う。
新人キャストの中でどれだけの人が長く続けていくかわからないが、その人たちが今後の東京ディズニーランド、ひいては東京ディズニーリゾートを支えていく存在になるのだから。

……そんな姿を見ていると、まだ東京ディズニーリゾートも捨てたものではないと思う。正直、今の運営体制には批判的で、完成しないパークが完成しようとしているのではないかと危惧している私だが、こうして新人キャストの姿を見ると、まだまだ、と思う。
夢と希望をもって……少なくとも、キャストとして、「ちゃんと仕事したい」という人が新人としてどんどん入ってくる限り、このパークはきっと完成しないだろう。

……誤解されると困るが、単なる「ディズニーへの憧れ」とか「好きだから」という人がキャストになっても、あまりいいことはない。そういう人はゲストとして遊んでいたほうがぜったいによい。
パークへ遊びにきたとき、ちょっと気分を壊すようなことがあると「あんなことがあるから夢が壊れるんだよね」と思うような人はぜったいキャストはやるべきではない。人が作る夢は、見る人の協力があってはじめて成り立つことをきちんと理解している人の方がいい。それが理解できない人は、少なくとも夢を作る側にはまわれない。

キャストもほかとおんなじ仕事なのだという理解、キャストのような裏方の仕事があって、夢と魔法の王国や冒険とイマジネーションの海が作られるという理解が大切である。
……そういったことに夢と希望を感じるような人はきっと、キャストとして楽しく仕事ができるだろう。そして、そういう人がもっと増えていけば、あのパークも少しは変わるはずだ。そして、必死になってがんばろうとするキャストを温かく見守れるゲストが増えていけば…………。

……それにひきかえ、今の私の職場は新しい人が入ってこないので、下から変わっていくことはない。上が変わるたびに、変われない我々下っ端が振り回されるだけだ。
「新人の質が落ちている」とお嘆きの皆さん、せめて、新人が入ってくるだけいいですよ。いつも同じメンバーでは、気分すら変わらないから。
期待する新人がたとえ入ってこなくても、新しい人が来れば、変化が起きるではないか。それって、組織には大切なんですよ。

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