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技が見れなくなったのは

カストーディアルといったら、「技」である。トイブルーム(ほうき)とダストパン(ちりとり)を駆使して、華麗な動きでゴミを掃き取る。その姿に憧れてカストーディアルキャストとなった人も多いはずた。
その「技」が最近見られない、カストの動きが遅くなったのではないか、という意見をよく訊く。残念ながら、それは事実である。

理由のひとつは、道具が変わったためである。以前は鉄製のダストパンで、地面に引きずってもスムーズに動いたし、ダストパンを動かすだけでゴミをとることができた。その機能を使って、さまざまな技が生み出された。だが、今はプラスチック製になったため、引きずることもできず、ゴミをうまくキャッチできないためのだ。

しかし、もっと大きな理由があった。それは過去にさかのぼらなければならない。

10周年くらいまでの東京ディズニーランドはそうではなかった。その頃まではグランドオープン以来働いていて、アメリカのキャストから直に技を教わったキャストも多く存在し、パークのあちこちで大技小技を披露していた。その弟子ともいえる後輩達も、習いながら、真似をしながら、頑張っているキャストが多かった。

当時は、アルバイトを統括する社員たちも理解があり、新人キャストにはこう指導していた。
「とにかく速く歩くこと。極端に言えばゴミなんてとれなくてもいいから、速く歩きなさい」
ベテランのカストーディアルは皆、早足で動き、素早い動作で掃き取りを行なっていた。ゆっくり歩いて、ゴミを掃き取るたびに立ち止まり、ゆっくりとトイブルームを動かすのはBad Showである、という考えからだった。だから、新人はごみをとらなくてもいいから、早く歩けといわれたのだ。

この当時も、禁じ手といわれる、オンステージではやってはいけない技というのもいくつかあった。足を使って、地面に倒れたトイブルームを空中にとばして、手でキャッチするとか、ダストパンの後ろをおもいっきり蹴り上げて、ひとまとめにゴミを取り込むといった危険性のある技は禁止されていたが、それ以外の技については、とくに何も言われなかった。

一つの転機は、あるテレビ取材だったのかもしれない。夕方のあるニュース番組が一週間にわたり、カストーディアルに関する特集を放映したのだ。(ちょっと記憶はあやふやだが、もしかしたらウェスタンランド特集だったかもしれない)その中で、一人のカストーディアルが紹介された。スピーディーに大きな動作で激しくスイーピングするそのキャストの姿が何分も映し出された。(ということは、オリエンタルランド広報はOKしたはずなのだが)
しかし、その後そのキャストはスーパーバイザーから厳重注意を受けたのだ。「カストーディアルがあんなに目立ってどうするんだ」というのだ。掃除をするキャストが、キャラクターや、そのテーマランドの”色”よりも目立ってはいけない、というわけだ。

10周年を境に、カストーディアルに対する「技」「動き」の規制が強まっていった。(ほかにも規制が強くなった部分はあるのだが、それまで書くと話がややこしくなるのでそれはいつか)

それは突然のことだったらしい。社員からこう指導されるようになったのだ。
「そんなに速く歩くな。ゆっくり歩け。新人キャストの動きに合わせるのだ」
つまり、一方で動きがゆっくりで技もできないキャストがいて、一方で派手に動いて技を次々と繰り出すキャストがいるというのは、スタンダードなサービスをモットーとするディズニーのテーマパークにはふさわしくない、ということになったようなのだ。

それでも、ベテランキャストの多くはあまり気にせず今まで通りやっていたのだが、それも年々辞めていくなどしてベテランは少なくなり、一方で新しいキャストは「ゆっくりでいいから」という指導をされているので、だんだん歩くスピードの遅いカストーディアルが増えていく。あまりやってはいけないといわれている技をどうどうと教えるわけにもいかないので、興味のある人がベテランキャストに個人的に教わる程度になったため、技の伝承者も減っていく。

そして、ダストパンが鉄製からプラスチック製のものに変更となり、技の多くが使えなくなった。

こうして、現在のカストーディアルの多くが技を使えない状況が生まれたわけである。

しかし、まだ完全に技を使えるカストーディアルが死に絶えたわけではない。今の道具なりの技を考えながら、「見せるスイーピング」を行なっているカストーディアルがいる。それが今後、どう次の世代のカストーディアルキャストに受け継がれていくか、それとも、「単なる掃除をするキャスト」になってしまうのか……それは今現在働いている人達にかかっているわけだ。

でも、個人的には今の方がいいように私は思う。多くの人が落ち着いた正確なスイーピングをしている。以前の鉄製のときは、うまい人の真似をしようと、ただダストパンを引きずりまくって、トイブルームをきちんと扱えない人がたくさんいたからだ。それは端から見ると、かっこわるかったし、引きずるときに発生する鉄の摩擦音が不快に感じるほど大きかった。それがなくなった分、わたしはよかったように思う。今のカストーディアルはみな堅実にトイブルームを動かしているからだ。姿勢さえよければ、見た目もかっこいい。

ただ、たまには「おお」と歓声を上げたくなるような技を見てみたい。大きな動作で激しく華麗なスイーピングを。だって、それがわたしにとってのカストーディアルキャストのイメージであり、その中で育った人間なのだから。

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