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除雪作業

アメリカにあるディズニーのパークと、日本のディズニーのパークの大きな違い、それは雪が降ることである。
東京ディズニーランドが開園するとき、雪への対処方法について、アメリカ側とかなり話し合ったようだ。何しろアメリカ側にそのようなマニュアルがなく、実際どのように対処すればいいか、明確な答えが出せなかったのだ。

雪は本来、東京ディズニーリゾートではBAD SHOWである。アドベンチャーランドのジャングルやウェスタンランドのアメリカ西部の街に雪など降るはずがないからだ。
かといって、雪を降らせないようにすることは、いくらディズニーマジックを駆使してもできないので、どうにか対処しなければならない。

開園当初の頃はかなりの積雪をともなう場合は、閉園時間を早めたり、開園時間を遅くしたり、あるいは事実上休園したりして、なるべく「雪化粧のディズニーランド」をゲストに見せないようにしていたのだが、最近は経済的事情が優先されるようで、オープンさせている。

どちらにしても、積もった雪は処理しなければならない。除雪作業を主に行なうのは、もちろんカストーディアルである。開園中は、デイ・カストーディアルが除雪を行なう。といっても、スコップを使うのは最後の手段であり、通常はプッシュブルームやスクイジーを使って、雪を集める、というよりも、こすりつけて溶かすといった方がいいかもしれない。

それでも間に合わないくらい降ってきたら、2輪カートや6ライナーカートにスコップで雪を詰め込み、バックステージへ捨てる。これでも間に合わなくなったら、閉園した方がいいんですが(笑)なかなかそうもいかないようで、最近は降り積もる雪を見ることができるようだ。雪が降った日はニュースなどで、雪の日のディズニーランドと、雪と戦うカストーディアルキャストを見ることができる。

でも、開園中の除雪作業はそれほど大変でもない。ゲストがいるので、大がかりに除雪することはできないからだ。問題は閉園後である。
閉園後の除雪作業は、ナイト・カストーディアルが中心になって行なう。ブルドーザーやショベルカーなどの機械と人による人海戦術で、一気に雪を殲滅するのだ。ただ、ナイト・カストーディアルだけでは数が少ないので、デイ・カストーディアルにも応援の声がかかる。

雪が降ると、オフィスから近所のキャストを中心に「今日出られるかな」という電話が来る。交通機関が乱れていて、キャスト数が確保できない場合と、あとは雪かき要員のためである。オープン中はカストーディアルキャストだけではなく、アトラクションキャストなどほかのキャストも雪かきのために召集される。アトラクションや店のまわりに積もる雪は、カストーディアルに任せる前に自分たちで処理しなければ間に合わないからだ。

「時給が2倍になるよ」という殺し文句に、参加するキャストは多い。実際深夜手当などが加算されるし、10時間以上の労働となるので、ふだんの2倍以上は稼げるのではないだろうか。しかし、実際に作業に携わった瞬間、多くの人が引き受けたことを後悔する。

真冬の深夜の東京ディズニーランドは、底冷えするほど強烈に寒い。(大晦日のカウントダウンに参加したことがあればわかると思うが)その上、雪と風である。雪かきはかなりの運動量になるはずなのだが、すぐに体温を奪われるので、寒さに震えながらの作業となる。カストーディアルは支給してもらった使い捨てカイロを懐に入れ、レインギアを身につけたフル装備で作業にのぞむ。

夜中のパークは開園中と違い、いつもの軽快なBGMはなく、建物の照明もほとんど消され、とても寂しい空間となっている。その中で夜間作業用の大型ライトが点灯され、その灯りの中で除雪作業を行なうことになる。

オンステージからバックステージへと続くベルトコンベアが設置され、スコップを片手に黙々と雪をベルトにのせていく。ベルトコンベアにのせられない雪はトラックや2輪カート、6ライナーカートなど、あらゆるものを使ってバックステージへと運び出すのだ。だから、バックステージには大きな雪山がいくつもでき、何日経っても溶けないまま残っている。バックステージの除雪は最低限しかやらないので、オンステージとバックステージの落差が笑えるほど、すごかったりする。

わたしは残念ながら雪の日の対応をしたことはないので、伝聞でしかないのだが、一度やった人は「もう二度とやりたくない」と必ず言う。

開園してから数年後、歴史的な大雪の日があった。夕方くらいから降り続いた雪はみるみるうちにパークを白い化粧で覆っていった。その日は平日で20時で閉園となったため、その日は雪に埋もれたTDLをゲストに見せることはなかった。
しかし、雪はどんどん降り積もってゆく。カストーディアルとレイバーのキャスト総動員で除雪作業を行なうが、降り積もる雪の量にはとても追いつかず、パークのなかでも5センチ以上の積雪があった。
それが明け方には止んでしまったのだ。この日の開園時間は9時から。それまでになんとか雪をパークから消し去らなければならない、と、作業が急ピッチで進む。地面だけではなく、屋根や木々に積もった雪も落とされ、雪に彩られたビックサンダーマウンテンなどのアトラクションからも、白い衣がはぎ取られていった。
オンステージから雪が消滅したことを確認した11時過ぎ、遅れて開園。交通機関も乱れる中で来園したゲストは、パークに足を踏み入れると、みんなびっくりしたという。パークの外は今だ雪が積もり、真っ白な光景を見せていたのに、一歩ディズニーランドへ足を踏み入れた途端、白い光景はなくなり、「いつもの夢と魔法の王国」があったのだ。ジャングルやアメリカ西部の町に雪などあるはずがないのだ。

また、雪が降って、とても開園できない状況があった。たしか、2日か3日間雪が降り続いたときだったと思う。積雪で停電したためということもあるらしいが、そのとき、それでも遊びに来たゲストがいた。そのまま帰すのは悪いと、入場料は無料にしてワールドバザールだけを開け、飲み物だけを販売したという。

最近は、雪が降っても東京ディズニーランドが休園するとか、閉園時間が早まったとか、開園時間が遅くなったという話を聞かない。そんなことをしなくても、雪に対処できる方法が見つかったのかもしれないし、「日本だから仕方がない」とディズニー社も黙認するようになったのかもしれない。

それでも、カストーディアルが除雪作業をすることは変わらないであろう。雪が降るとわたしは必ず考える。「東京ディズニーランドは、どんな状況なんだろう」と。そしてわたしは思い出す。カストーディアルとして働いていた日々を。

(東京ディズニーランドでの除雪の経験をもとにして作られたマニュアルは、今ディズニーランド・パリで使われているという)

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